お花見と兼業大家さん

 

桜の開花宣言が北上を続けています。

街並みを、宴会場を、
そして深夜を、妖しくも艶めく空間に、
変貌させる春の花……。

 

古来より「ケ」と「ハレ」で
日常を分けていた日本。

 

「ケ」は日々の暮らしです。
それぞれの職分に従い、黙々と働き、
つつましやかに過ごします。

 

「ハレ」は、お正月や冠婚、
そして祭り等の特別な時間。
その日限りは無礼講です。

職分を超え、地域に住む住民が集い語らい、
酒を飲み唄います。

 

「ケ」ばかりでは息が詰まる。
「ハレ」を続けると、生活に支障が出る。
双方のバランスが大切です。

 

見たところ、
2か月〜3か月に1度程度の頻度で
「ハレ」の日を設けていたようです。

田植え、盆踊り、収穫祭、
お正月、そしてお花見……。

 

地域によっては1つか2つ
独特の祭りを加えています。

例えば、大文字焼、ねぶた祭り、
七夕、ケンカ祭り、裸祭などなど。

 

「ハレの日」は、日常の不満を吐き出し、
地域社会の結束を再確認する有効な手法
だからこそ、引き継がれてきたのでしょう。

 

そうした「ハレ」の中でも、
独特の伝統行事こそ”お花見”です。

桜並木を歩き、お重を食べ、語らい、
時には唄い、笑顔を交わします。

 

他のハレの日のように、
地域社会が一致結束して準備をする
必要はありません。

家族、職場、友人、
親戚、そして恋人同士、
もしかすると一人だけでも、
成立する「ハレの日」、
それが”お花見”です。

 

そっと歩く。
悩み事を抱えた方であっても、
周囲の変化に気づき、
顔を少し上げるだけで、

(もう、春かぁ……)
と、気づけます。

でしゃばらず、何かを強要せず、
春の到来を告げ、散ってゆき、
ザワザワとした葉桜に一変します。

 

ただ、ご理解いただきたい。
この伝統を、
裏から支える人々の努力を、

 

”サクラ”
大半を占めるソメイヨシノは、
自生できません。

花を咲かせ種ができても、
樹木にまで成長することはありません。

 

ソメイヨシノは接ぎ木と挿し木でしか、
数を増やすことはできないのです。

古くは村や町、神社、仏閣が予算を計上し、
植木屋の棟梁が親方となり、
地域住民の労働力により、
桜並木を作り上げてきました。

放置すると、樹勢を弱め、
他の樹木に負けてしまうのが桜です。
桜並木は人の手を借りなければ、
生存を許されません。

 

幼いころは、
「きれい、夢みたい……」
  と、だけ思ってきた。
 

小学校、中学校と進むと、
お花見のあとで、花びらをかき集める大人、
晩秋に、落ち葉を積み上げ、
枝打ちをする植木職人、
何気ない彼らの姿に気づきます。

 

どこか、
兼業大家さんと似ていないでしょうか?

 

貸家は、一人では何もできません。
大家さんである、
皆さんの、お力添えがなければ、
再リフォームも、設備の入れ替えも、
大規模修繕も、何一つできはしません。

 

ただ、
貸家が望むであろう、
貸家があるべき姿を、
淡々と、実現に向け、努力を継続すれば、

貸家は、彼らの魅力を存分に
発揮してくれます。

 

さすれば!

貸家は、
皆さんの「ケ」である日々の日常を支え、
皆さんの「ハレの日」を豪華賢覧に
彩ってくれることでしょう。

 

兼業大家さんに、”幸”あれ!!

 

咲き始めの
薄紅色のサクラを眺めつつ、
強く祈念、申し上げます。

 

以上、略儀ながら感謝とともに。

 

藤 山 勇 司

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