松尾芭蕉と大家さん

 

『月日は百代の過客にして、
     行かふ年も又旅人也』

日本の紀行作品の代表、
奥の細道の書き出しです。

現代文に直すと、

「月日は、永遠に旅を続ける
旅人のような存在であり、
来ては去り、去りとて来る年も
また同じように旅人である」

どこか、大家さんの仕事と似ている……
と思うのは私だけでしょうか。

貸家を取得した後は、
入れ替わり立ち代わり、
店子の皆さんがひと時の間、入居される。

その様子は旅人に
つかの間の休息を提供する
峠の茶屋や旅籠のようです。

 

45歳の俳聖、松尾芭蕉は、
漂泊の思いを止めることができず、
春になると白河の関を越えてみようか
と思います。

そして、住まいは人に譲り、
去り際にふと、庵の柱に発句を
掲げました。

 

『草の戸も住替る代ぞひなの家』

(現代訳:
新な住人を迎えることになる
草葺きのこの家も、節句の頃には、
賑やかにお雛様を飾るのだろう)

 

まさに、店子により住まいの状況が一変する
貸家の面白さを、遥か300年前の俳句に
込められているようです。

半世紀を生き、
その後も3年の月日が流れました。

芭蕉が漂泊の思いを抑えきれず、
旅だった頃よりも8年の歳月を
重ねています。

 

大家さん業に足を踏み入れて、
満23年。

「サラリーマンでも
大家さんになれる46の秘訣」
を上梓して13年、
月日はひと時も途絶えることなく
流れ続けています。

 

貸家を取得すると、1軒の戸建て、
1室のワンルームマンションであっても
自他共に認める大家さんです。

さらに、入居希望者が現れ、
実際に皆さんの貸家に入居されると、
家賃が入金されることになる。

給与の他に、不動産所得を得るので、
毎年確定申告をすることになります。

大家さんは、店子という旅人に
休息の場を提供する峠の茶屋や旅籠。
だからこそ、守らなければならぬ
約束事があります。

 

それは、店子が満足する貸家の状況です。

 

仕入れに厳しくなりすぎ、
薄いお茶を出すようでは、悪評が広がり
開店休業状態に追い込まれるまで、
さほどの時間はかかりません。

 

看板に描かれた串団子の数は6個なのに、
5個の串団子を出してはなりません。
誇大広告の極みです。

 

満足してくださるからこそ、
家賃という名の報酬を受け取ることができる。

障子が破れたなら張替え、
畳みが摺り切れたなら
表畳を交換しなければなりません。

 

この業務こそ、リフォームです。

そして、現状維持のリフォームだけでなく、
時代の流れに追い越されぬよう、
人気の設備も充実させる、
「攻めのリフォーム」を意識してこそ、
店子さんの心を掴むことが可能となります。

 

もしかすると、皆さんの前に、
平成の松尾芭蕉と呼ばれることになる
”旅人”がやってくるかもしれません。

 

300年後の名著の中で、非難されぬよう、
できれば賞賛してもらえるよう、
貸家のグレード維持に気をつけたい。

 

奥の細道を読み返し、
改めてリフォームの大切さに思い至ります。

 

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