「終末論とリンゴの種」

 

「終末論とリンゴの種」

 

1973年に上梓された、

ノストラダムスの大予言。。。

覚えていらっしゃるでしょうか?

 

35歳以上の皆さんであれば、

おそらく、認知度95%以上。

20歳未満の方は、

どうでしょう?

30%いくかどうか。

 

世代間の認識の差は著しいものがあります。

 

1963年生まれの私といえば、

ノストラ予言が大ヒットになった当時、

10歳ですから

もちろん、ノストラダムス世代。

テレビは、

五島勉さんの特番で持ちきりでした。

 

「なぁ、見た?」

 

「見た見た。

 あと、30年ないじゃん。

 勉強しても意味なくねぇ?

 やりたいことをやっても、

 どうせ、皆死ぬじゃん。

 ねぇ、勇さんはどう思う」

 

なんか、イヤでした。

突然、

学校の話題をノストラダムスに

ひとつ残らず、

持ち去られたようで、癇に障りました。

 

「おめぇら、

 信じてるのか?」

 

「テレビでやってたよ。

 父ちゃんも母ちゃんも

 テレビにかじりついてた。

 きっと、

 1999年には、

 核戦争が起こって、

 川は魚が浮いて、

 もがき苦しみながら、

 死んでしまうんだよ。

 ねぇ、どうする?」

 

冗談じゃなく、

本気で信じているようです。

気が付くと、人垣ができていて、

私が次に何を言うのか、

彼らの視線は痛いほどでした。

 

「よーし、

 じゃ賭けるか?

 1999年7月に

 人類が死滅すると思ってる奴?

 もし、当たったら、

 100万円やるぜ。

 当たらなかったら、、、、

 そうだな、1万円をくれ。

 100倍の大チャンスだ!

 よい、

 ノストラダムスが当たると

 思ってる奴、手を挙げろ。

 ちゃんと、ノートに書いとくからな。

 って、皆かよ。

 ははは、ぼろ儲けだな」

 

私は腹を抱えて笑いながら、

“クラス全員“

とノートに書きなぐりました。

 

「ちょっと、ちょっと

 何をやってるの?

 授業始めますよ。

 何、また、藤山君?

 こんどは一体何?」

 

「せんせい、

 脇坂先生は、ノストラダムス

 信じますか?」

 

「関係ないでしょ」

 

「関係なくはないだろうが、

 先生が何でもめてるか

 聞いたからだよ。

 あんたが、原因を聞いてきたんだろうが!

 なんでもかんでも、

 オレが悪いのか」

  

昔から、

一方的に、頭ごなしに文句を言われると、

頭にカッと、血が上る性分です。

当時は、瞬間湯沸かし器と、

陰口を叩かれていました。

 

「大予言のことでしょ。

 まぁ、なんて言うか、

 信憑性は、あるわよね。

 ヒットラーやナチスも

 言い当てていたし。

 それが何か?」

 

先生は、冷静を保とうと

私の目をぐっと睨んできます。

 

「じゃさ、

 1999年7月の大予言、

 当たったら、オレが100万円やるよ。

 外れたら、1万、いや、10万円くれ。

 どうだい?

 この賭け、乗るかい?」

 

「100万円?

 あなたに、そんなお金ないじゃない」

 

「25年もたちゃ、

 オレは35歳だ。

 その頃は、金は腐るほど持ってる。

 で、どうする?」

 

「ふ~ん、いいでしょ。

 その賭け、乗りましょう。

 あとで、職員室に来なさい」

 

授業が終わり、

掃除をしている最中、

クラスの奴らは、

 

・オレも賭けてるから、よろしく

・あたしもだからね

・うちもかけてるからね

 

次々に声をかけてきました。

私と言えば、

 

「ああ、大船に乗ったつもりで

 任せとけ、金はしこたま持ってるから」

 

すると、

私に金魚のフンのように後を付いてくる同級生の一人が

 

「勇さん、先生が呼んでるよ。

 職員室に早く来いって」

 

「そうかそうか、忘れてた」

 

と、箒を横にいる奴に押し付け、

職員室に腕を広げて、

駆けていきました。

 

「で、先生何?」

 

「あなたねぇ、

 学級委員長なんだから、ちゃんとして」

 

「先生が押し付けたんだろうが」

 

「その言い方、もっと、何とかならないの?」

 

唇はワナワナと震え、今にも手を上げそうな様子でした。

  

「ところでさ、

 先生、ノストラダムスの件だけど、

 忘れるなよ」

 

「100万円も忘れちゃダメよ。

 口約束だって、約束なのよ」

 

「ははは、

 先生。先生は本当に人に物を教える資格あるのかい?」

 

「まぁた、馬鹿にして。

 どうして、藤山君はそうなの?

 もっと、目上の人を敬うことはできないの?」

 

「立派な大人なら、オレだってそうするさ。

 ただな。。。」

 

「ただ何よ」

 

私は、足を組みなおし、

身体を乗り出し、

ゆっくりと戦闘の口火を切りました。

 

「先生、

 さっきの

 ノストラダムスの話だけどさ、

 あれは、ダメだよ。

 きっぱり否定しないと」

 

「でも、当たってるじゃない。

 過去の予言が当たってるんだから、

 1999年7月も。

 そうでしょ。

 どこが可笑しいって言うの?」

 

「個人の見解は、それでいいさ。

 でもよ、

 賭けに乗っちゃダメだよ」

 

「何で?

 はは~ん、100万円が惜しくなったんでしょ。

 先生は忘れないからね」

 

攻守逆転したと勘違いしたのでしょう。

脇坂先生は、上から見下ろすような視線を私に向けてきました。

頃は良し。

釣りで言えば、餌を丸飲みにしている状態です。

 

「いいかい、先生。

 仮に、万が一

 ノストラダムスが正しいとしようか。

 人類は死滅するわけだ。

 そんな状態で100万円を手にしてどうする?

 人類死滅だから、

 おいらも、先生も死んじゃってるし、

 たまさか、ちょっとの間、生きながらえて、

 オイラが先生に100万円渡したとしても、

 その100万円で何を買う?

 100万円なんて、ただの紙だろ。

 誰が、貴重な食糧とか医薬品と変えてくれる?」

 

「あっ!」

 

「あ、じゃねぇよ。

 あそこで、先生が否定してくれると 

 期待していたんだぜオイラは。

 それを、堂々と賭けに乗ってきてさ、

 それに、あろうことか職員室にまで呼んで、

 何が、

 ”100万円が惜しくなったんでしょ”

 だよ。

 それが人に物を教える教師かよ。

 がっかりだぜ。

 たっく」

 

「。。。。。そう、そうね。

 私って、ダメね」

 

「じゃ、オイラは帰るぜ」

 

このまま、責めると、

きっと泣き出す。

また、藤山がと、悪評がうなぎ上りになるのは

火を見るよりも明らかです。

さっと、椅子から立ち上がる私に。。。

 

「それで、

 藤山くん。賭けは」

 

「賭けは成立してるんだろ。

 口約束も約束だって言ったのは

 先生じゃないか!」

 

まぁ、腹が立ちました。

あれから、48年!

もう、とっくのとうに時効です。

10万円を取り立てることは永遠にありません。

 

これと同様な終末論は、

何度も何度も浮かんでは消えていきました。

今も、あちらこちらで 

囁かれています。

 

では、

危機はゼロかと問われれば、

危機がゼロなんて、

これまた、夢物語です。

 

ですが、

私は、ルーマニアの作家にして詩人の

ゲオルグ・ゲオルギウ氏の言葉を

ベースにしています。

何度も何度も、己自身に読み聞かせています。

それは、

 

””もし世界の終りが明日だとしても私は今日林檎の種子をまくだろう””

 

なんと、素晴らしい名言でしょう。

どうせ、賭けるなら、

終末論よりも、未来の展望に

全てを投ずる。

   

過去の人類の歴史に、

安穏とした時代なんてありませんでした。

そして、

今も、

香港、チベット、ウイグル

アメリカにしても日本にしても

塗炭の苦しみの中で、息をされている方も

数多くいらっしゃいます。

 

事実、

広島県呉市で生まれた私です。

呉市と広島市の直線距離は18キロ。

広島原爆被害者は近所に数多くいらっしゃいました。

ケロイドでただれた腕や背中や頬、

歩くのも辛そうな方もたくさん目にしています。

 

ですが、

文句を口にする人は寡聞にして知りません。

よく聞いたのは、

 

「あれは、日本とアメリカの喧嘩よ。

 なぐりゃ、殴られる。

 喧嘩がオワリャ、仲良うすりゃいい。

 今度は負けんように、

 仕事で借りを変えさんにゃいけん」

 

ハッキリ申し上げて、

放射能の被害も眉唾物だと感じています。

 

昭和20年8月6日、原爆により、

広島市内を今も走る路面電車広電は、

123両中、108両が被災し、

職員185名が殉職、266名が負傷しました。

ところが、

3日後、路面電車は復旧し、市内復興の象徴として

広島市民を勇気づけたのです。

 

あれから、

76年。一度も広島市内はロックダウンされることなく、

ビルが建ち、工場が作られ、

広島カープ、サンフレッチェ広島も擁する政令指定都市として、

中国地方で君臨しています。

 

ロシアのチェルノブイリ、

立入禁止区域は今も制定されていますが、

人間の入らなくなった同地域は、野生保護区のように、

豊かな生態系を作り上げています。

野生馬や牛、オオカミ、クマに狐。

川には鮭やヤマメが所せましと息づいています。

残留放射能は捕食者に蓄積されていますが、

寿命が極端に短くはなっておらず、

むしろ、個体は大型化しているようです。

 

もしかすると、

局地的な核戦争が起こる可能性を否定はしません。

ですが、

その一時で、

人類が死滅するなんてことは絶対にない。

どんな致死率の高い疫病が

生物兵器として、拡散されたとしても

人類が絶滅することなんて

万が一にも億が一にも京が一にも

あり得ない。

断言します!

 

おっと、

いぶかしげな方が

ちらほらと。

いやいや、

予想よりも多く、

お見受けします。

 

いいでしょう。

賭けますか?

お一人、1000万円でいかがでしょう?

外れたら、10万円いただきます。

100倍の大チャンスです!

 

この大一番、

乗られる方はいらっしゃいますか?

 

以上、ノストラダムスあれこれ。

    藤 山 勇 司

 

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